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「トレース水彩画」秘伝その3  彩色はまず明暗で描く


彩色はオーケストラに似ていて、完成時にはすべての色がハーモニーとなって1枚の絵に集約されていなければなりません。
そのためたえず、完成した絵をイメージしながら塗る必要があります。彩色の難しさはここにあります。

「トレース水彩画」では、最初の1色は黒を使用し、明暗だけの絵を描きます。その上から他の色を塗り重ねることで、簡単で失敗のない彩色ができます。その前提として、色は3つの属性から構成されていることをご理解ください。

     色の3つの属性(色は独立した3つの属性からなっています)
      @色相(期・赤・青などの色味) 
      A彩度(色のにごり度合い) 
      B明度(色の明るさ度合い)

通常の絵の描き方は、ひとつの色を塗るのでも、同時に@ABの3つの視点から色を吟味し、かつ完成する絵のハーモニーを考慮して描かなければなりません。
「トレース水彩画」での彩色は、最初の1色は明暗で描きます。
それは上記の@Aを無視して Bだけに集中して描けばいいわけですから、圧倒的に簡単に描けるのです。

最初の一色でB明度(色の明るさ)の絵ができると、一挙に絵の完成がイメージできます。その上から全体のハーモニーを意識しながら、「どの段階でも、それなりに絵になっている」ように@とAの色を塗り重ねていけば、失敗の少ない彩色を簡単に描くことができます。


@素になる写真



暖かい陽射しの中で毛づくろいしている猫です。
これをトレースします。




A線画を描く


線画が完成し、次に彩色の行程に入ります。




Bにじまない墨汁で描く



おすすめは、漫画作で使用する墨汁。漆黒から柔らかなグレーまで、明暗の色調も自由に表現できます。
そして最大の特徴は、塗り重ねても決してにじまないことです。



この描き方は明暗ので描いた上から、他の色を塗り重ねるため、
にじまないことが必須条件です。

黒い2本線の上の線は、漫画製作用墨汁の線。
下は透明水彩の黒の線です。
透明水彩の黒はにじんでいるのに対し、
上の漫画制作用墨汁の線は、まったくにじんでいません。


Cていねいに塗り重ねる


暗い部分を描いていきます。
ひと塗りで完成させようとせず、全体のバランスを見ながら、水に溶いた淡いグレーを何度も塗り重ねて、徐々に仕上げていきます。
影を的確に表現することは、陽射しの明るさを表現することでもあります。


D線画の完成

黒の明暗で描くだけで、絵の出来上がりがしっかりイメージできますね。
この上からトレースの素となった写真を「色見本」にしながら、通常の色彩を塗り重ねていきます。

ポイント

明暗を正確に描くには、1回の塗りで完成しようと思わずに、水に溶いた薄めの墨で、塗っては乾かし、塗っては乾かしで一歩一歩塗り重ねて、正確な明暗の絵に仕上げていくのが、もっとも失敗しない描き方です。
上の明暗の絵Cの場合は、2度の重ね塗りの段階、Dの場合は、5〜6回塗り重ねて描き上げました

E彩色して完成

ここで、はじめて@色相(色の種類)A彩度(色のにごり具合)B明度(色の明るさ)を意識します。
上からどんどん素地の色を塗り重ね、あっという間に絵が完成しました。
明暗さえっかり描けば、それ以降の彩色はとても簡単に、そして余裕を持って描くことができるのです。






最初の一色は明暗で描く・事例集

最初の一色を黒色だけで描いた途中の絵と、その完成画です。
最初に全体が明暗で定着されれば、全体のバランスが把握でき、以降の彩色が格段に簡単に描けます。
黒を使えば、絵が濁ってしまったり、暗くなったりするのではと危惧する方がいますが、まったくそんな心配は必要ありません。


肖像画は目を描けば、一挙に全体のイメージがを掴むことができるため、まず目と濃い部分から描くといいでしょう。


強い太陽の光を表現するために影は漆黒としました。