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やさしい心


古都と言われる街、たとえば京都や金沢、
そして鎌倉もその中に入るのですが、古都には共通の特色があるようです。
それは、そこに暮らす人々が、自分の街や地域に対し、強い誇りと愛情を持っていることです。

環境美化への意識の高さであったり、
高い倫理観であったり、古き良さや伝統を大切に思う気持だったりなど、
根底にあるのは「やさいし心」にあると思いました。

私は鎌倉人の「やさいし心」を、どうしても一枚の絵として表現したいと感じました。
しかし、茫漠とした概念だけでは、たとえアトリエにこもってあれこれ考えたとしても、
いい知恵など浮かぶはずもありません。


こういうときは、カメラをポケットに入れ、ひたすら街を歩くことにしています。
毎日飽きもせず路地から路地へと歩きまわり、たくさんの写真を撮りました。
しばらくしてからその中の一枚の写真が目に留まり、
それを素に描いたのがこの「やさしい心」という絵です。

この絵は女性が路地を掃除している
ごく当たり前の風景に過ぎないのですが、
たとえばヨーロッパでは、街に暮らす人々が家々の窓に花を飾り、
道行く人の目を楽しませるように、
鎌倉人は訪れる人を気持ちよく迎えるために、
ゴミひとつない街にする・・・。

そんな「やさしい心」をこの絵で伝えたかったのです。





描き方のポイント
絵を描くうえで難しいのは、「何を描くか?」を決めることです。
プロの画家には、そのテーマを捜し求める苦悩の道こそ
画家人生そのもであると言う方もいます。
「トレース水彩画」では、行動することから始めます。
第一は感動した情景を探すこと。
第二はそんな情景を確実に写真に収めること。
そして撮りためた写真の中から一枚を選ぶこと。
それが「何を描くか?」の答えなのです。
→詳細はP86「感動を描く、だから写すのは感動」参照