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あとがき


「トレース水彩画」は、写真をトレースして、それに彩色して仕上げるという私が開発した画期的な描き方です。もし、「ただ写真をトレースするだけなんて、オリジナリティや自己表現なんてないのでは?」と思ったら、それは大きなまちがいです。あなたが描く1本の線に、あなたそのものが表れます。もしウソだと思うなら、本書で紹介したカモメの絵にチャレンジしてみてください。1枚の写真からでも、描く人によってまったく違う絵に仕上がるから驚きです。

「トレース水彩画」をたった一度でも体験すれば、その面白さにきっと気づくでしょう。最初は従来の描き方とはまるでちがうことには戸惑うかもしれません。しかし既成概念を捨て、自然体で「トレース水彩画」を描けるようになれば、今度はまるで写真のように絵が描けるようになります。写真のように描けるということは、つまり情景を正確に描けるということ。絵を描くうえでの大変な能力が身についたことになります。


 写真のように描ける実力がつくと、むしろ写真から離れていく描き方になります。

 そこからが「トレース水彩画」が、もっともっと面白くなるのです。本当に描きたいところを強調したり、逆に描きたくない部分を削除したり、彩色も写真にこだわらず、自由な色使いができるようになってきます。まさにそこからがあなたの個性や自分らしさを表現することになるのです。

 さて、あなたは絵で何を表現したいですか? やさしさ、癒し、温かさ、寂しさ、愛……いろいろあるでしょう。私にとって「何を描くか?」を追求することは、とりもなおさず自分自身を見つめ直すことだと思っている今日この頃です。