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「苦労せず、てっとり早く上達する絵の描き方」は、
こうして開発しました

 私は美術大学を卒業したのですが、絵を描いたのは大学の授業が最後です。卒業後はずっと絵とは無縁の世界で年を重ねてきました。

 五十の声を聞いたとき、趣味のひとつとして絵でも描いてみようかと思いつきました。長いブランクの間に絵の描き方もずいぶん様変わりしたのではないかとはたと思いつき、最新の絵画技法書を取り寄せました。ところが描き方も道具も、昔とまったく変っていなかったのです。ひと言で言えば、絵の描き方はなんの進歩もしていないなかったのです。私はその事実にとても驚かされました。

 ところで、視覚表現として絵の対極にあるのは、写真です。学生時代は写真に熱中していたのですが、その当時の写真はごく当たり前に写すだけでも大変で、できあがった写真のほとんどは露出不足や手ブレといったひどい代物でした。

 しかし、その後のカメラや写真技術の進歩はすさまじいものがありました。カラー化、自動露出、オートフォーカスといった、シャッターさえ押せば猿でも撮れるほどまで性能が向上し、デジタルカメラやケイタイへと進化しました。

 技術の進歩がそのまま普及につながり、今や写真は生活の中ではなくてはならないものとして広く深く浸透しました。一方の絵と言えば、相変わらず進歩も発展もありません。このままでは時代から取り残されるのは明白でした。だからこそ私は、絵の世界に大きな可能性を感じたのです。

 六十の定年退職を迎える頃、いくつかの再就職の話がありました。迷いはありましたが、絵の世界をトコトン突き進むことに決めました。写真ほどまでに進化させられないにしても、絵の世界に的確な技術革新さえあれば、人々にもっと受け入れられるのではないか。 そんな思いがあり、その開発に賭けてみることにしたのです。
そして、第二の人生を「画家」として出発させたわけですが、実体は「画法開発者」+「画家」という2つの仕事に、まさに寝食を忘れて没頭しました。

 

「画法開発」とは、絵画の描き方の開発ですが、ひらたく言えば「苦労せずてっとり早く上達する絵の描き方」の開発です。そして「画家」とは、それらの新しい絵の描き方を具体的な形、つまり絵を描くことで証明するという仕事でした。
 

 そして完成した画法が「トレース水彩画」です。「世界にこれ以上簡単に本格的な絵を描く方法はない!」とまで確信できる画法になりました。この本にその内容が詳しく掲載されていますので、ぜひお楽しみください。
 

 また、この一連の仕事を通じて大きな副産物もありました。それが本書のもうひとつのテーマでもある「湘南」が大好きになってしまったことです。湘南に住んで30年以上経つにもかかわらず、これまで自分の住む地域なぞ無関心で、湘南の風景なぞほとんど描いたこともありませんでした。
 

 しかし、毎日毎日湘南の魅力を探しだし、描いているうちに、深く湘南を愛する自分に気づきました。つまり、魅力あるものを描くのではなく、描くからこそ魅力的になるのです。人は自分を愛し、自分の立つ地域を愛さずして、どうして豊かな人生を掴むことができるでしょう。

 

 これまで何度か絵に挑戦し、挫折された方は多いでしょう。その原因は、おそらく描いても上手に描けないことと、描いても描いても上達しないことではないでしょうか。だから逆に言えば、絵を描くのが好きになり、夢中になれる極意は、絵が上手に描けることと、描けば描くほど上達することです。そのコツが本書にふんだんに詰まっています。
 

 私が開発した苦労せずてっとり早く上達する絵の描き方の「トレース水彩画」をマスターすれば、あなたも自分の中に隠れている夢中をきっと見つけられるはずです。そしてあなたの日常生活が、絵を描くことによってより鮮やかで魅力的なものに変わるでしょう。

 

                                                      森田健二郎